嘆キノ壁ハ積ミ上ゲラレテ 愚カノ神ハ奉ラレル
 聞こえない音が耳を貫いた。
 悲鳴とも嗚咽ともつかない、哀しみに満ちた声。
 そして伝わる衝撃。
 大地が、揺れた。
 號は目を覚まし、身体を起こした。すぐ傍らに気配を感じる。
「……………薫?」
 己を見下ろすは真竜王の伴侶。その眼差しはどこか物憂げで。
 ―――招かれざる客だ、號。
 直接心に語りかけてくる、声。
 ―――来るべくして来た客と、それを追って、招かれざる客が『こちら』に来 ている。

「こちら、って事は、ここじゃない所から、来た?」
 尋ねれば、首肯が返されて。
 ―――招かれし客人は二人。そして二体。招かれざる客は、………そうだな。 一人、と言って良いだろう。
 彼の言葉に號は何となく状況を理解する。ついにお出まし、と言う事か。
「わかった。―――有難う、薫。真竜王の所に戻ってあげてくれ。待ってるみた いだから」
 號が言うと、僅かに表情を和らげて彼は頷き、大気に溶けるように姿を消した 。
 さて。
「先に見つけないと、最悪な事になるな」
 一人呟き、號はベッドを降りる。
 パジャマを脱ぎ、服を着込むと、些か足を早めて部屋を後にした。

 リビングに、人の気配がする。
 この時間なら、まだ誰も起き出してはいない筈だし、何よりも気配が他の誰と も違う。

 招かれし客か、招かれざる客か。
 ドアノブに手を掛けたまま逡巡するは一瞬。意を決しドアを開ける。

 と。

 リビングの窓際に立っていた人影が振り向いた。
 まだ若い。
 自分と同じ位…否、少し若いだろうか。パイロットスーツらしき物を身に着け た、まだどこかあどけなさの残る少年。
 彼は號を見て、安堵に似た表情を見せる。そして、身体ごと向き直ると問い掛 けてきた。
「ここは、どこだ?」  號はそれには答えず、問い返した。
「お前は、どこから来た?」
 問い掛けに少年は少し考え、そして答える。
「わからねぇ」
 と。
 號は更に問いを重ねた。
「お前、ゲッターに乗っているのか」
 少年は、―――――頷いた。
「なあ、ここはどこなんだ?俺はアークに乗ってカムイと戦っていた筈なんだ。
なのに気付けばここにいた。アークもねぇ」
「―――――アークと言うのは、ゲッターの事か」
 聞きなれない呼び名に號が尋ねると、少年は頷いた。
「ゲッターロボアークって言うんだ」
「カムイと言うのは?」
 その言葉には、少年は一瞬口を噤んだ。動揺したようにも見えた。
 だが彼はすぐに顔を上げる。
「かつてはゲッターロボのパイロットだった奴で、今は…今は恐竜帝国の頂点に 立つ男だ」
 恐竜帝国。それがきっと彼の世界での、ゲッターと敵対する存在なのだろう。
「わかった。―――――ここは、位置で言うなら浅間山だ。だが、お前がいた世 界とは違う、―――否、時空が違うと言うべきか」
「時空が違う?」
 少年が目を丸くする。無理もない。いきなりそんな話をされても突飛なだけだ 。
 號は一番わかりやすい目印を少年に見せた。
 窓際へ歩み寄り、カーテンを引く。
 早乙女邸の庭、その少し先に鎮座するは灰褐色の守護神。
「見えるだろう?あれが、―――真ドラゴンだ」

 少年の表情が驚愕に染まった。
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